将来必要なお金と今の貯蓄から考える保険の要不要判断
はじめに
現在の保険契約がご自身の状況に合っているか、漠然とした不安を感じている方は少なくないかもしれません。日々忙しい中で、加入している保険の内容を確認したり、見直しの必要性を判断したりする時間は取りにくいものです。
保険は、万が一のことが起こった際に、残された家族やご自身が経済的に困らないように備えるための手段の一つです。しかし、その「万が一」に必要な金額は、ご自身のライフステージや現在の貯蓄状況によって変化します。
この記事では、保険が必要か不要か、あるいは保障内容が適切かを判断する一つの視点として、「将来必要になるかもしれないお金」と「現在の貯蓄や資産」から考える方法をご紹介します。これは、ご自身の状況に合わせて保険を整理するための、あくまで基本的な考え方です。
なぜ「将来必要なお金」から考えるのか
保険で準備するお金は、特定の事態(死亡、病気、介護など)が発生した際に必要となる可能性のある費用を補うためのものです。したがって、保険でいくら備えるべきかを考える出発点として、そうした事態が起こった場合に「どのくらいのお金が必要になるか」を想定することが有効です。
例えば、一家の働き手が亡くなった場合、遺された家族の生活費、子供の教育費、葬儀費用などが考えられます。大きな病気になった場合には、治療費だけでなく、働けない期間の収入減も考慮する必要があるかもしれません。
これらの費用は、ご自身の家族構成、お子様の年齢、住宅ローンの有無、現在の収入など、様々な要因によって大きく異なります。将来必要になる可能性のあるお金を具体的に想定することで、現在の保険契約が必要な保障額を提供できているか、あるいは過剰になっていないかを判断する材料が得られます。
将来必要になる可能性がある「お金」の種類
保険を考える際に想定される主なリスクと、それに伴い必要となる可能性のあるお金の種類は以下の通りです。
- ご自身が亡くなった場合:
- 遺族の生活費(残された家族が生活していくために必要な金額)
- お子様の教育費(大学卒業までの学費など)
- 住宅ローンの残債(団信などでカバーされない場合)
- 葬儀費用、整理資金
- ご自身が病気やケガで入院・手術した場合:
- 治療費、入院費用、手術費用(健康保険適用外の費用や差額ベッド代など)
- 働けない期間の収入減に対する補填
- 通院費用、リハビリ費用
- ご自身が介護状態になった場合:
- 介護サービスの利用料
- 介護用品の購入費
- 自宅のバリアフリー改修費用
- 介護施設への入居費用
これらの費用は、ご自身の年齢やライフステージによって必要性が変化したり、金額が大きく変動したりします。例えば、お子様が小さいうちは教育費の必要性が高いですが、独立すればその必要性は減ります。住宅ローンも、返済が進むにつれて残債は減少します。
「今の貯蓄や資産」でどこまでカバーできるか
将来必要になる可能性のあるお金を全て保険で備える必要はありません。なぜなら、多くの場合、現在の貯蓄や、いざという時に活用できる資産があるからです。
まずは、現在お持ちの預貯金、有価証券などの金融資産、あるいは不動産などの資産を確認してみましょう。これらの資産の一部または全てを、万が一の事態に備えるための資金として活用できるか検討します。
また、会社員の方であれば、会社の退職金制度や企業年金なども将来の資産として考慮できます。さらに、日本の公的な社会保障制度(健康保険、厚生年金、雇用保険など)も、病気やケガ、失業、死亡、老齢など、様々なリスクに対する備えを提供しています。例えば、健康保険には高額療養費制度があり、医療費の自己負担には上限があります。遺族年金や障害年金といった公的年金制度も、万が一の際の所得を補填する役割を果たします。
ご自身の貯蓄・資産や、利用できる公的制度や会社の福利厚生を確認し、「将来必要になるかもしれないお金」のうち、これらでどの程度まかなえるかを把握することが重要です。
保険で備える金額の考え方
「将来必要になるかもしれないお金」と「現在の貯蓄や資産、公的制度などでカバーできる分」を把握できたら、保険で準備を検討する金額の目安が見えてきます。
保険で備える金額 = (将来必要になる可能性のあるお金) − (現在の貯蓄・資産 + 公的制度・会社の福利厚生などでカバーできる分)
この計算式はあくまで簡略化した考え方ですが、これにより、ご自身の状況に対して現在の保険契約で備えている金額が多すぎるのか、少なすぎるのかを判断する一つの基準が得られます。
- 現在の保険契約の保障額が、上記の計算で算出された目安よりも大きい場合:現在の保障は十分すぎる可能性があります。保険料負担を減らすために、保障額を減らす、特約を外す、あるいは保険契約自体を見直すことを検討できます。
- 現在の保険契約の保障額が、上記の計算で算出された目安よりも小さい場合:保障が不足している可能性があります。ただし、不足分をあえて保険ではなく貯蓄で備えるという選択肢もあります。保険での上乗せが必要か、貯蓄で対応するかを検討します。
- 現在の保険契約の保障額が、上記の計算で算出された目安と近い場合:現在の保障内容はご自身の状況におおむね合っている可能性が高いです。大きな見直しの必要性は低いかもしれません。
この考え方で見直しの判断をする際のポイント
この考え方に基づいて保険の要不要や保障額の適切さを判断する際には、いくつかのポイントがあります。
- 「将来必要になるお金」の想定はあくまで目安: 将来のことは誰にも分かりません。必要となる金額は、状況によって大きく変動します。あくまでご自身が「これくらいは必要だろう」と考える金額を想定することが出発点となります。
- 貯蓄や資産の流動性: 貯蓄や資産の中には、すぐに現金化できないものや、別の目的で使う予定のものもあるかもしれません。保険で備えるべき金額を考える際は、すぐに活用できる資金がどれくらいあるかを考慮に入れることが現実的です。
- 公的制度や会社の福利厚生を過小評価しない: 日本の社会保障制度は手厚い部分があります。ご自身がどのような制度を利用できるかを知ることで、保険で備えるべき範囲をより正確に判断できます。会社の福利厚生についても、就業規則などを確認してみましょう。
- 一度決めたら終わりではない: ライフステージは常に変化します。収入や家族構成の変化、住宅ローンの完済など、状況が変われば必要な備えも変わります。この考え方を使って、定期的に保険を見直すことが大切です。
まとめ
現在の保険契約が必要か不要か、あるいは保障が過剰になっていないかを見極めるために、「将来必要になるかもしれないお金」と「現在の貯蓄や資産」を考慮するという考え方は有効な出発点となります。
ご自身やご家族が万が一の事態に直面した際に、具体的にどのようなお金が、どのくらい必要になりそうかを一度考えてみましょう。そして、現在お持ちの貯蓄や資産、利用できる公的な制度などを確認し、それらでどこまでカバーできるかを把握します。その上で、足りない分を保険でどのように補うかを検討することで、現在の保険契約がご自身の状況に合っているかどうかの判断材料になります。
この考え方は、保険に関する漠然とした不安を解消し、ご自身にとって本当に必要な備えは何なのかを具体的に考える助けとなるでしょう。保険を見直す際は、ご自身の状況に合わせて、冷静に判断を進めてください。