親の介護に備える保険:必要性を見極める考え方
はじめに
40代になり、ご自身の将来に加えて、親御さんの高齢化が現実味を帯びてくるという方もいらっしゃるのではないでしょうか。もし親御さんが介護を必要とする状態になった場合、どのくらいの費用がかかるのか、どのように備えれば良いのか、漠然とした不安を感じることもあるかもしれません。
親御さんの介護にかかる費用への備え方には、公的な支援、親御さん自身の資産、ご家族の負担、そして民間の保険など、いくつかの選択肢があります。この記事では、それぞれの選択肢の考え方をご紹介し、ご自身の状況において、民間の介護保険などが本当に必要かを見極めるための判断基準を提供します。特定の保険商品を推奨するものではなく、あくまでご自身で考えるための材料としてお役立ていただければ幸いです。
親の介護にかかる費用を考える
まず、親御さんの介護にはどのくらいの費用がかかる可能性があるのでしょうか。介護が必要な状態になっても、費用は個々の状況や受けられるサービスによって大きく異なります。
公益財団法人生命保険文化センターが実施した調査(2021年度)によると、介護期間は平均5年1ヶ月、介護にかかる費用は一時的な費用として平均74万円、月々の費用として平均8.3万円という結果が出ています。これらの金額はあくまで平均であり、在宅介護か施設介護か、利用するサービスの内容や頻度によって大きく変動します。特に施設介護を選択した場合、月々の費用は高額になる傾向があります。
もちろん、これらの費用すべてを自己負担するわけではありません。公的な制度や親御さんの資産を活用することも可能です。
介護費用への備え方:選択肢を整理する
親御さんの介護に備える主な方法には、以下のものが考えられます。
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公的制度の活用:介護保険制度 日本の公的な介護保険制度は、要介護認定を受けた人が介護サービスを利用する際の費用を補助する仕組みです。原則として、サービス費用の1割(所得によっては2割または3割)を自己負担することで、様々な介護サービスを利用できます。 利用できるサービスの量には、要介護度に応じた上限(区分支給限度額)がありますが、上限を超えなければ費用負担は抑えられます。また、同じ月に利用した介護サービスの自己負担額が一定額を超えた場合、超過分が払い戻される高額介護サービス費制度もあります。これらの制度を活用することで、介護費用の自己負担を軽減できます。
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親御さん自身の資産活用 親御さんご自身の貯蓄や年金、不動産などを介護費用に充てることも重要な選択肢です。親御さんの資産状況を把握しておくことは、介護費用への備えを考える上で不可欠です。
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ご家族(子など)の負担 親御さんの資産や公的制度でまかないきれない費用は、ご家族が負担することも考えられます。ご自身の収入や貯蓄から捻出することになりますが、兄弟姉妹がいる場合は、どのように分担するか話し合うことも大切です。
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民間の保険活用 民間の保険には、介護状態になった際に一時金や年金が支払われる民間介護保険や、死亡保険金や解約返戻金を介護費用に充てる考え方、特定の疾病や状態に備える医療保険の特約などがあります。これらの保険は、公的制度や自己資金だけでは不足する場合に備えるための手段となります。
民間介護保険の必要性を見極める考え方
では、これらの選択肢を踏まえて、ご自身の状況で民間の介護保険などが必要かどうかをどのように判断すれば良いのでしょうか。以下の点を整理してみましょう。
1. 親御さんの状況を確認する
- 資産・収入: 親御さんの貯蓄、年金、不動産などの資産はどのくらいありますか。これらの資産で、どの程度の介護費用をまかなえそうでしょうか。
- 健康状態・要介護リスク: 現在の健康状態はどうですか。将来的に介護が必要となる可能性はどの程度考えられますか。
- 家族構成: 配偶者はいますか。兄弟姉妹はいますか。介護を支え合うことができるご家族はいますか。
2. ご自身の状況とご家族の協力体制を確認する
- 収入・貯蓄: ご自身の現在の収入や貯蓄状況はどうですか。親御さんの介護費用を負担することになった場合、どの程度であれば無理なく捻出できそうでしょうか。
- 扶養家族: ご自身に扶養している家族はいますか。介護費用負担がご自身の家族の生活に与える影響を考慮する必要があります。
- 兄弟姉妹との協力: 兄弟姉妹がいる場合、介護にかかる労力や費用について、どのように協力できそうか話し合いはできていますか。
3. 公的制度でどこまでカバーできるか考える
日本の介護保険制度や医療費控除などの公的制度について、最低限の仕組みを理解しておくことが重要です。これにより、自己負担がどの程度軽減されるか把握できます。
4. 自己資金(親の資産+子の貯蓄等)でどこまで備えられるか考える
親御さんの資産、ご自身の貯蓄、そして兄弟姉妹からの協力などを合計した場合、想定される介護費用(前述の平均値や、ご自身の親御さんの状況に応じた試算)のどの程度をまかなえそうか、おおまかに計算してみましょう。
5. 不足する金額と保険で備える必要性を判断する
想定される介護費用から、公的制度による軽減分と自己資金でまかなえる部分を差し引いた金額が、将来的に不足する可能性がある額です。この不足額に対して、民間の介護保険などで備える必要があるかを判断します。
- 不足額が少ない、または自己資金で十分まかなえる場合: 無理に民間の介護保険に加入する必要性は低いかもしれません。その分を他の貯蓄や投資に回すという考え方もあります。
- 不足額が大きい、または自己資金に不安がある場合: 民間の介護保険などが、不足するリスクを補うための有効な手段となる可能性があります。どのような保障内容(一時金、年金など)が必要か、保険料は無理なく支払えるかなどを検討することになります。ただし、保障内容によっては保険料が高額になる場合もありますので、保障と保険料のバランスを慎重に判断することが重要です。
まとめ
親御さんの介護への備えは、ご自身のライフプランを考える上で避けて通れないテーマの一つです。しかし、必要以上に不安を感じる必要はありません。まずは、親御さんの資産状況、ご自身の経済状況、そして公的な介護保険制度の仕組みなど、現状を冷静に把握することから始めてみましょう。
その上で、公的制度や自己資金でどこまで対応できそうかを見積もり、不足する可能性のある部分について、民間の保険を含めた様々な備え方を比較検討することが重要です。一律に「この保険に入っておけば安心」というものではなく、ご自身の状況に合わせて、保険が必要か不要か、そしてどの程度の備えが必要かを自己判断することが、賢明な備えにつながります。この記事が、その判断のための一助となれば幸いです。